東京地方裁判所 昭和33年(行)63号 判決 1960年11月09日
原告 岩見案山子
被告 東京都知事
主文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者双方の申立
原告代理人は、請求の趣旨として「被告が原告に対し、昭和三三年五月七日付都陸輸第一、七三九号をもつてした自家用自動車の使用禁止処分及びその附帯命令書に基く行政処分はいずれもこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
第二当事者双方の主張
原告代理人は、請求の原因及び被告の主張に対する答弁としてつぎのように述べた。
一 原告は、昭和二九年二月、その所有する大型自動車につき東京陸運局より移動店舖車として自動車検査証を受け、銀座、新宿等の盛り場において右自動車内で酒類の販売をするとともに、新宿駅西口を起点として東京都内及びその周辺の競馬場、競輪場、競艇場まで観衆を無償で送迎してその自動車内で酒類その他の販売をすることを業としていたが、昭和三一年五月頃、警視庁により東京都内の道路上に停止して販売をすることを禁止されたので、それ以後は専ら新宿駅西口と競馬場等との間の往復途上で酒類その他の販売をしていた。しかして自動車の数は当初は一台であつたが、漸次増車し、昭和三一年初頃には九台となり、従業員数は三五名に達した。
二 ところで改正前の道路運送法(昭和二六年六月一日法律第一八三号、以下旧法という。)第二条第二項は「この法律で自動車運送事業とは他人の需要に応じ自動車を使用して有償で旅客又は貨物を運送する事業をいう。」と規定し、同法第四条第一項は「自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならない。」と規定していたが、原告の場合は旅客の運送そのものは無対価であるから無償として右免許を要しなかつた。しかるに昭和三一年七月二日法律第一六八号による改正後の道路運送法(以下新法という。)第二条第二項においては旧法の「有償で」の文字が削除されたので、原告の前記事業もあらたに道路運送法に定める自動車運送事業となり、同法第四条第一項に基きその経営につき運輸大臣の免許を受けなければならないこととなつた。
三 そこで原告は、前記事業につき新法施行の日である昭和三一年八月一日より三〇日以内である昭和三一年八月三〇日、運輸大臣に対していずれも無償の一般(限定)乗合旅客自動車運送事業の免許申請と一般貸切旅客自動車運送事業の免許申請をしたが、昭和三二年三月二六日になつて有償の一般(限定)乗合旅客自動車運送事業の免許申請を追加した。しかして右各申請のうち有償の一般(限定)乗合旅客自動車運送事業免許申請についてはその後運輸審議会の議に付せられ、昭和三三年二月一日運輸省告示で公聴会を請求する者に対する公告がなされてその申請は係属中であり、一般貨切旅客自動車運送事業免許申請については昭和三二年一二月に申請が却下されたけれども、右却下はさきに原告が個人の事業を法人組織による経営事業とするために同年九月に設立した昭和交通株式会社の名義による免許を求めようとして当初の原告個人名義の申請の却下を希望したためになされたものであつて、原告は直ちに右会社の名によつて同様の申請をし、右申請は係属中である。
四 しかるに被告は、原告に対し、原告所有の自動車につき新法第四条に違反するとの理由で昭和三三年五月七日付陸輸第一、七三九号をもつて自家用自動車の使用禁止及びその附帯命令の処分(以下本件使用禁止等の処分という。)をした。
五 しかしながら、新法附則第二項によれば新法施行の際同法第二条二項によりあらたに自動車運送事業となる事業を経営している者は、新法施行の日より三〇日間以内に当該事業についてその経営につき運輸大臣の免許をうるための申請をした場合は免許をする旨又はしない旨の通知を申請者が受ける日までの期間は運輸大臣の免許を受けないでも当該事業を引き続き経営することができることとされているのであるところ、前記のように原告のした免許申請については当初の無償のものはもとより、後に追加した有償のものもまた運輸大臣の免許をする旨又はしない旨の処分がなく、原告はその通知を受けていないのであるから、この間に従来と同様の営業をしたことについて原告には新法第四条違反の事実はないのである。従つて本件使用禁止等の処分は違法であるからその取消を求める。
六 原告が新法施行当時に経営していた事業は前述のとおり移動店舖車内における飲食物の販売であつて、自動車運送事業としては無償のものであることは被告が本件口頭弁論において自白したところであり、被告は後にこれを撤回したが原告は右自白の撤回に異議がある。仮りに右自白の撤回が許されるとしても、原告の事業が無償のそれであつたことは当局が原告の申請に基き漸次自動車検査証を下附して増車を認めてきたことによつて明らかである。原告は被告主張のように有償の自動車運送事業の経営を自認したことはない。仮りに自認したとしても、それは新法施行後前述のように自動車運送事業の免許を申請していた折柄東京陸運局係官の意に逆わぬように真意に反して自認したものにすぎない。又原告が当初無償の一般(限定)乗合旅客自動車運送事業の免許申請をしながら後に有償の同事業免許申請を追加したのも東京陸運局係官の指示にしたがつたものに外ならない。仮りに被告が監査を実施したと主張する日に原告使用の自動車において原告の使用人が乗客から販売代金として受領した一人当り金二〇〇円相当の菓子類を乗客に交付しなかつたとしても、これに相当する商品を右自動車に積み込んだことは間違いなく、唯右使用人が独断で交付しなかつたものにすぎない。さらに被告が昭和三三年四月一八日に原告においてその使用自動車をもつて観光バスの行為をしたと主張するのは訴外行楽観光社が昭和交通株式会社の自動車を借りてなしたものにすぎず、原告自身の行為ではない。
七 仮りに新法施行当時の原告の事業が有償の自動車運送事業であつたとしても、すでに九台の大型自動車と三〇余名の従業員によつて過去三年間に亘り継続して来た事業を突如不能ならしめる本件使用禁止等の処分は、従来の実績のある業者には法律改正の前後を問わずできる限り継続して事業を行わしめようとする新法附則第二項の立法趣旨に反するので違法である。
被告代理人は、答弁及び被告の主張として次のとおり述べた。
一 原告の主張事実のうち原告がその所有する大型自動車につき東京陸運局より移動店舖車として自動車検査証を下附されたこと(但しその日は昭和三〇年四月一日である。)、原告が当初右自動車内で酒類その他の販売をしていたこと、原告使用の自動車は当初一台であつたが、漸次増車して九台となつたこと、道路運送法が原告主張のように改正されたこと、原告がその主張の日に運輸大臣に対し無償の一般(限定)乗合旅客自動車運送事業の免許申請をし、さらに有償の同免許申請をしたこと(但し追加的申請ではなく、原告は有償の免許申請をすると同時に無償の免許申請を取り下げたものである。)、右免許申請は原告主張のような経過により現在係属中であること、原告のした一般貸切旅客自動車運送事業の免許申請が原告主張の頃却下されたこと、昭和交通株式会社の名において同事業免許申請がなされ係属中であること、被告が原告主張のような処分(本件使用禁止等の処分)をしたことはいずれも認めるが、昭和三一年初頃に原告の使用自動車数が九台であつたこと、原告の一般貸切旅客自動車運送事業の免許申請がなされたのが原告主張の日であつて、被告が右申請を却下したのは原告の希望によるものであることはいずれも否認する。その余の事実は知らない。
二 原告が昭和三一年七月二日法律第一六八号(新法)の施行当時経営していたのは、自動車内で飲食物を販売することによつて運送料金を飲食物代という名目のもとに、ないしは飲食物代中に包含せしめて収受し、不特定多数人を運送する有償の自動車運送事業であつて(被告は当初原告が同法施行当時経営していたのは無償の自動車運送事業である旨の原告の主張を認めたが、それは事実に反する陳述で錯誤に基いてしたものであるから、右自白を撤回して否認し、右のような主張に改める。)、原告が同法附則第二項にいう「この法律の施行の際現に改正後の道路運送法第二条第二項の規定によりあらたに自動車運送事業となる事業を経営している者」に該当しないことは明らかである。したがつて被告が原告の運送事業は新法第四条に違反するものと認めてなした本件使用禁止等の処分は何ら違法ではない。原告が新法施行当時有償の無免許営業を行つていたことは次の事実によつても明らかである。
(一) 被告は、昭和三二年七月一五日に原告の事業所に立入検査をしたが、その際関係帳簿類によつて原告が有償運送営業を行つている事実を確認し、原告も被告が昭和三二年八月二六日に行つた聴問に際してこれを自認した。
(二) 昭和三三年二月一七日、原告の使用する八す〇三六〇号、八す〇三〇五号の各車輛は、千葉市所在千葉競輪場において車輛の前面左側に行先及び運賃(金二〇〇円)を掲示し、レース開始前より客待ち体制に入り、レース終了とともに拡声機をもつて乗客を誘引し、乗客を乗車せしめた後前記掲示を取り外して出発し、走行中女子従業員は会員券と引換に乗客から一人当り金二〇〇円を徴収し、途中各所に乗客を降して国電新宿駅西口前に到達した。
(三) 昭和三三年二月二五日、原告の使用する八す〇五五六号、八す〇三〇四号の各車輛は、東京都品川区所在大井競馬において、同じく車輛の前面及び側面に行先を掲示し、その下に研究書、茶菓代等金二〇〇円と表示し、レース終了後拡声機をもつて乗客を誘引した後発車し、走行中女子従業員は乗客から一人当り金二〇〇円を整理券引換で徴収し、途中各所に乗客を降して国電池袋駅前に到達したが、途中茶菓その他の物品を出さなかつた。
(四) 昭和三三年四月一八日、原告の使用する八す〇三〇五号の車輛は、東京都品川区所在大井山中小学校四年在学の生従約四〇名を乗車させ、原告所有の他の車輛四輛とともに校外教授のために東京都内所在の井の頭公園、深大寺、東京天文台のコースを廻つて帰校する観光バスの行為をなし、その料金一輛当り金九、〇〇〇円五台分合計金四五、〇〇〇円を徴収した。
三 仮りに原告が新法施行当時行つていたいわゆる乗合バスと貸切バスによる自動車運送事業が無償であつたとしても、原告はつぎのような理由で新法附則第二項の適用がなく、したがつて原告の事業が道路運送法第四条に違反するものとした本件使用禁止等の処分は何ら違法ではない。
(一) いわゆる乗合バスについて。
原告は、新法施行当時無償の乗合バスによる運送事業をしていたとすれば、新法により右事業について運輸大臣の免許を受けなければならぬこととなつたわけであるが、原告は新法施行の日から三〇日以内である原告主張の日に無償の一般(限定)乗合旅客自動車運送事業の免許を申請したものの、昭和三二年三月二六日にいたりあらためて有償の同事業免許申請をするとともに無償のそれを取り下げたので新法附則第二項は結局において適用されないこととなつた。
(二) いわゆる貸切バスについて。
原告は、昭和三二年五月二二日に運輸大臣に対し貸切バス事業経営に必要な一般貸切旅客自動車運送事業の免許の申請をしたが、右は新法施行の日から三〇日を経過した後になされたものであり、しかも右申請はすでに却下されたから新法附則第二項の適用はない。なお原告は、昭和交通株式会社が一般貸切旅客自動車運送事業の免許を申請中であるから、原告が貸切バスによる運送事業を適法に経営することができると主張するが、右会社は原告と別個の人格であるから右主張は理由がない。
第三証拠関係<省略>
理由
一 原告がその所有する大型自動車につき東京陸運局から移動店舖車として自動車検査証の下附を受け、当初右自動車内で酒類その他の販売をしていたが、原告使用の自動車は当初の一台から漸次増車して九台となつたこと、原告は昭和三一年八月三〇日に運輸大臣に対し無償の一般(限定)乗合旅客自動車運送の免許申請をし、昭和三二年三月二六日に同じく有償の同事業免許申請をしたが、後者の免許申請はなお係属中であること、原告名義の一般貸切旅客自動車運送事業免許申請は却下されたが、昭和交通株式会社名義の同事業免許申請はなお係属中であること、被告が昭和三三年五月七日付陸輸第一、七三九号をもつて原告に対し自家用自動車を使用して自動車運送事業を経営したという理由で右自家用自動車使用禁止処分及びその附帯命令書に基く行政処分(本件使用禁止等の処分)をしたことはいずれも当事者間に争いがない。
二 原告が運輸大臣から昭和三一年七月二日法律第一六八号による改正後の道路運送法(新法)第四条第一項の規定による自動車運送事業の免許を受けていないことは原告の主張自体から明らかであるが、原告は新法附則第二項の適用によつて同法第四条第一項の規定による免許を受けないでも新法施行前から経営していた自動車運送事業を経営することができるので同法第四条違反の事実はないと主張する。ところで新法附則第二項は、新法の施行に伴う経過規定として新法施行の際同法第二条第二項の規定によつてあらたに自動車運送事業とされた無償の自動車運送事業(自動車を使用して旅客又は貨物を運送する事業)を経営している者は、新法施行の日から三〇日間及び右期間内に当該事業につき免許申請をして免許をするかしないかの通知を受けるまでの期間は新法第四条第一項の規定による免許を受けないでも当該事業を引き続き経営することができる旨を規定したものであることは明らかであるから、果して原告が新法施行当時自動車によつて無償の運送事業を経営していたかどうかが問題とされるわけであるが、この点について被告は本件口頭弁論において一旦は原告が当時無償の自動車運送事業を経営していたことを自白したものの、後にこれを撤回して有償の自動車運送事業を営んでいた旨の主張に改めた。よつてまず被告の右自白の撤回が許されるものであるかどうかについて検討してみよう。
証人山中静、同成田茂の各証言、原告本人尋問の結果、証人成田茂の証言により成立を認めうる乙第三、第四号証の各一、二、公文書のため真正な成立を推定すべき乙第五号証の一を綜合すると、原告は、昭和二八年頃大型自動車を使用して右自動車内で飲食物の販売を営むことを思いたち、当初は宣伝車の名目で右販売を営んでいたが、昭和三〇年頃被告から飲食店営業の許可を受け、さらに東京陸運局から当初の自動車及びその後増車したものについて移動店舖車として自動車検査証の交附を受けて右同様の営業を続けたこと、原告は最初文字どおり移動店舖車として銀座、新宿等の盛り場の道路上に自動車を停車せしめて客を吸収し、車内で飲食物を販売した上客の輸送に従事していたが、後に昭和三一年五月ごろ警察当局により東京都内においては自動車を道路上に停車せしめたまま販売をすることを禁止されたため営業の方法を変更して主として国鉄新宿駅、池袋駅等の起点と東京都内及び近県の競馬場、競輪場、競艇場との往復に乗客を乗車せしめ、走行中の自動車内において酒類その他の飲食物を販売することとし、新法施行の前後にわたり右のような形態における営業を行つていたことを認めることができる。ここで問題は原告が右起点と競馬場等との往復に乗客から乗車の対価を徴収していたかどうかということであるが、証人成田茂の証言と前掲乙第三、第四号証の一、二、乙第五号証の一によると、昭和三三年二月一七日、原告はその所有にかかる大型自家用自動車八す〇三六〇号、八す〇三〇五号の二台に千葉市所在千葉競輪場から国鉄新宿駅前及び同渋谷駅前まで乗客を乗車せしめ、会員券と引換に一人当り金二〇〇円を徴収したが、とくに飲食物を注文した客以外の客には何ら飲食物を提供しなかつたこと、又同月二五日、原告はその所有にかかる大型自家用自動車八す〇五五六号その他の自動車に東京都品川区所在大井競馬場から国鉄池袋駅前等の終点まで乗客を乗車せしめ、整理券と引換に一人当り金二〇〇円を徴収したが、やはり注文した客以外には飲食物を出さなかつたことが認められる。もつとも原告は乗客に対しては必ず茶菓を出しており、たまたま前記日時に出さなかつたとしてもそれは原告の使用人が独断で出さなかつたものにすぎないと主張し、証人山中静の証言及び原告本人尋問の結果のうちには右主張に副う部分があるけれども直ちに措信しがたい。又仮りに通常はすべての乗客に茶菓を出していたとしても、原告が現実に提供した茶菓は原告本人の供述のうちにあるように金二、三〇円相当あるいはそれ以下の僅かな名目的なものにすぎず、車内におけるサービスなるものもかくべつ特段のものがあつたことを認めるべきものはないから、会員券ないし整理券と引換に乗客から徴収していた一人当り金二〇〇円が右茶菓の代金あるいは代金といわゆるサービス料を含めたものであるとは到底認めがたいところである。この場合乗客の主たる目的は現在地より目的地までの移動にあるのであり、車内における飲食の供与やこれにともなう若干のサービスは附随的なものに過ぎないというべきである。従つて少くとも右金二〇〇円中右茶菓の価額や若干のサービス料にあたる部分を超える額は実質的には乗客輸送の対価すなわち運賃に相当するものであると認めざるをえない。これをしも飲食の供与サービスが通常より高価であるに過ぎなくて輸送の対価としては無償であるとするのは詭弁である。右認定に反する証人山中静の証言及び原告本人尋問の結果は直ちに措信しがたい。してみれば原告は前記日時頃自家用自動車を使用して運賃を徴収して乗客を運送する事業を営んでいたことが推定されるが、原告本人尋問の結果によると原告は新法が施行された昭和三一年八月一日当時も前記日時の頃と同様の形でその所有する自家用自動車をもつて自動車運送事業を営んでいたことがうかがわれ、この営業形態は少くとも昭和三一年五月ごろ原告が警察の注意によつて競馬場等との往復にあたるようになつてからは同様で、このころから輸送が主で飲食の供与は従たるものとなつたというべきであり結局において原告は新法施行当時有償の自動車運送事業を経営していたものといわなければならない。したがつて被告の前記自白が真実に反することは明らかとなつたわけであるが、そうだとすれば反証のない限り右自白は被告の錯誤に基いてなされたものであると推定すべく、しかして本件においては何ら右反証は提出されていないので被告の右自白の撤回はこれを許すべきである。
しかして原告が当時無償の自動車運送事業を営んでいたことはこれを認めるべきものがなく、かえつてその事業は有償のものであつたことは右のとおりである。もつとも原告が旧法当時から同一の営業を営みながら当局は「移動店舖車」なる名称で、自動車検査証を交付し、順次その増車をも認めていたことは前記のとおりであるが、このことは原告の営業形態の当初のそれがはたして有償の自動車輸送事業といい得るかどうかがまぎらわしく、その後その営業形態が実質的に変つたこととも相まつて当局に十分な認識がなかつたこと、営業免許の所管と車券交付の所管が内部的に異なり、両者の間に統一がなかつたこと等によるものと解せられ、原告において釈然とし得ない事情は諒とするが、これをもつて原告の事業が客観的に無償であつたことの証とすることはできない。
三 結局において前項において認定したとおり原告が新法施行当時経営していた自動車運送事業が有償のものである以上原告に新法附則第二項の適用はなく、したがつて同法第四条第一項の規定(この規定は新旧両法を通じて変更はない)による免許を受けない限り右事業を経営することは許されないから、被告が新法第一〇二条第一項第一号第一二二条、道路運送法施行令第七条地方自治法第一四八条別表第三(百二)に基いて原告に対し本件使用禁止等の処分をしたのは適法である。原告は、右処分は従来の実績ある業者に法律改正の前後を問わずできる限り継続して事業を行わしめようとする新法附則第二項の規定の趣旨に反するので違法であると主張するが、右規定の趣旨は前述のとおりであつて、原告の事業は旧法当時すでに有償の自動車運送事業となつていたものであるから、その当時は免許を受けなければならなかつたものであり、新法によつてあらたに免許を要するものとなつたものではない。運輸行政の当局が従来一方において原告の営業形態を知りながら自動車検査証を交付して暗にその営業を許容して数年を経た後、一転して本来免許を要すべきものとしてその違反を追及し、本件使用禁止等の処分に出たことは、はたして相当であつたかは問題であろう。しかし違法かどうかの問題としてはこの程度ではまだ本件処分を違法とするには十分でなく、新法附則第二項の趣旨に反するものとすることを得ない。この点の原告の主張は理由がない。
よつて本件使用禁止等の処分の取消を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 浅沼武 菅野啓蔵 小中信幸)